「リスク対応手続」って何?
「分析的実証手続」って何?
「詳細テスト」って何?
今回はこのような疑問に答えれるように解説します。
こんにちは。大阪の会計士/税理士の唐木です。
前回は、「監査の全体像」と「リスク評価手続」について解説しました。
今回は評価したリスクに対して、具体的に手続をする「リスク対応手続」について解説したいと思います。
「リスク対応手続」とは
「リスク対応手続」は、識別したリスクに対して具体的にどのように対応するかという内容になります。大きく会社の内部統制の運用状況を評価する手続と実際に監査手続をする「実証手続」の二つになります。「実証手続」は、さらに「分析的実証手続」と「詳細テスト」の二つに分かれます。
監査に使える会社の内部統制が機能しており、実際に利用できるのか確認する「運用評価手続」のと、監査人自身がテストをする「実証手続」という二つの方法により監査を進めます。
内部統制の運用状況の確認のイメージは、例えば、売上の内部統制で不正な売上計上を防止するために売上計上した営業担当者とは別の営業事務担当者が売上計上に問題がないかをエビデンスを基に確かめ、エビデンスに押印するという統制があったとします。監査人は監査上その内部統制を利用して、売上計上において、不正な売上が計上されないようきちんと営業事務担当者が売上計上の妥当性を確認しているということを確かめる必要があります。そのため監査人は、サンプルベースで営業事務担当者が確認してエビデンスに押印していることを確かめます。
監査人は効果的かつ効率的に監査を実施するために、重要性を考慮して「実証手続」を実施します。そのため、企業の勘定科目の全てについて、「実証手続」を実施するわけではありません。金額的な重要性を考慮し、重要性の基準値未満の勘定科目については、質的な重要性がなければ全く見ないということもあります。
監査人が監査手続をする「実証手続」について、「分析的実証手続」と「詳細テスト」の二つがありますので、それぞれ解説します。
「分析的実証手続」
「分析的実証手続」は、監査人が監査の結果問題はないと判断するための「実証手続」の一環として分析を実施するものです。実務的によく使われる例としては、固定資産の減価償却費・消費税等・人件費といった、監査人が推定計算することが可能な勘定科目に対して使用されます。
具体的には、固定資産の減価償却費については、会社が作成する固定資産台帳の信頼性を評価できれば、固定資産台帳から減価償却費を推定計算することが可能ですので、それと会社が実際に計算した結果を比較するイメージです。
消費税等については、監査対象となる残高試算表のPL項目や固定資産の取得金額を基に仮払消費税等と仮受消費税等を推定計算し、そこから中間納付で支払った消費税等を控除した結果と会社が計上している未収消費税等又は未払消費税等を比較するイメージです。
これらの結果、会社の計算結果と監査人の推定結果の差異が監査人が設定した許容可能な金額を下回れば「分析的実証手続」が完了したことになります。
監査人自らが推定計算を行うのみで、会社が持っているエビデンスを実際に確認する手続ではないことから、基本的にはリスクが低い領域や、内部統制の運用評価や詳細テストと組み合わせて行われます。
「分析的実証手続」においては、監査人の推定計算の前提となるデータの信頼性が特に重要になりますので、それなりの文書化が求められることになります。これは、前提条件となるデータの信頼性に問題があれば、監査人が実施する推定計算の精度が保証されなくなるためです。
「詳細テスト」
「詳細テスト」は、「分析的実証手続」以外の監査人自らがテストする手法であることから、様々な手法が存在します。
そのため、代表的な「詳細テスト」について解説します。
- 「実査」
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現物の資産を実際に監査人が確かめる手続です。一番イメージがつきやすいのは、現金を実際に監査人が数えて、数えた現金と帳簿に記帳されている金額に不一致がないかを確かめる手続です。
昔は手元現金の保有が多くそれなりに重要視されていた手続ですが、近年では、ネットバンキングによる銀行振込が普及したことにより手元現金が少なくなっている傾向にあるので重要度は下がっている傾向にあります。他に対象となる現物資産の項目としては、株券や受取手形がありますが、株券も非上場会社のものが中心で重要性が低く、受取手形についても紙の手形は政府が廃止を呼びかけており、重要性は低くなる傾向にあります。
「実査」の詳細については、こちらの記事でまとめています。
会計士が解説!監査手続の実査って何? 実査って具体的にどんなことをしているの?実査の時に注意すべきことは? 今回はこのような疑問に答えれるように解説します。 こんにちは。大阪の会計士/税理士の唐木で… - 「確認」
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第三者に対して実際に監査人が事実を確かめる手続です。様々な事実に対して「確認」がされますが、この中でも、金融機関との取引や残高を確かめる手続、取引先に対して売掛金の残高を確かめる手続、顧問弁護士に対して訴訟案件がないかを確かめる手続が代表的なものになります。
「確認」は、被監査会社を介さず、監査人が第三者に対して直接事実を確かめる手続であることから、証明力が強い監査証拠を入手できるのが特徴です。ただ、その分回答先から残高確認状が返却されないことがあったり、残高確認状の返送状況を管理したりとそれなりに手間もかかります。
電子メールでやり取りする方法もありますが、未だ紙による「残高確認」が主流です。この点は、電子メールでのやり取りでも十分証明力の強い証拠が入手できると個人的には考えますが、宛先のメールアドレスの信頼性を確認する必要があったり、電子メールでは、社印の押印がないこと等で紙による証明力が強いと考えられ紙による「残高確認」が多く採用されています。
「確認」の詳細については、こちらの記事でまとめています。
会計士が解説!監査手続の確認って何? 確認って具体的にどんなことをしているの?確認の時に注意すべきことは? 今回はこのような疑問に答えれるように解説します。 こんにちは。大阪の会計士/税理士の唐木で… - 「立会」
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会社の実地棚卸に同行し、会社が適切に在庫をカウントしていることを確かめる手続です。在庫を保有する会社であれば、期末月の月末付近に実地棚卸をするのが一般的です。
実地棚卸は会社によりますが、アイテム数が多い会社であれば種類やエリア毎に毎月循環で実地棚卸を実施しているケースや、期末以外にも中間月の月末付近に実地棚卸を行い年2回実施しているような会社もあります。
小売業を営む会社については、営業終了後の深夜や営業開始前の朝早くから実地棚卸を実施することがあります。例えば、スーパーはその典型となります。
監査人は、会社が実施している実地棚卸の状況を「立会」により確認し、会社が定めたマニュアルの通り実施されていることを確かめます。例えば、実地棚卸は2人1組で実施するようになっており、1人が数えた後にもう一人が再度数える等を定めていることがありますので、実際にそのようにして実地棚卸がされているのかを確認します。
会社が実地棚卸をし実際に数量を数え終わったものについて、間違いなくカウントがされていることを確かめるために、サンプルベースで監査人自らがテストカウントを行います。テストカウントの結果、誤りが多くあれば、実地棚卸を会社にやり直させることもあります。
棚卸資産は通常業務の過程で紛失したり、入出庫を誤ったりすることで帳簿の数量と実際の数量とに差異が発生することがあります。実地棚卸では、定期的に実際の数量をカウントし、帳簿の数量と比較することで、帳簿の数量を実際の数量に補正する手続となりますので、会社としても大事な手続になります。その実地棚卸について、適切に正確に実施されている心象を得るために実施するのが「立会」ということになります。
「立会」の詳細については、こちらの記事でまとめています。
会計士が解説!監査手続の立会って何? 実地棚卸・立会の目的は?実地棚卸ってどんなやり方があるの?立会の流れは? 今回はこのような疑問に答えれるように解説します。 こんにちは。大阪の会計士/税理士の唐… - 記録や文書の「閲覧」(証票突合)
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監査人がエビデンスを実際に入手し、会社の取引等に問題がないことを確かめる手続です。入手するエビデンスは多岐にわたり、例えば、契約書・請求書・検収書・納品書・入出金明細等が挙げられます。様々な取引に対して実施する基本的な手続となります。
証票突合は年次が上がるにつれて重要な書類しか見なくなっていきますので、監査人としては、最初の職階のスタッフの時に証票書類の見方を覚えておくのが重要です。
売上関連の証票書類については、こちらでまとめています。
会計士が解説!「売上の計上タイミング」と「証票書類」について 売上を計上する日の例は?売上に関する「証票書類」ってどんなものがあるの?それぞれの「証票書類」の内容は? 今回はこのような疑問に答えれるようにわかりやすく解説… - 「再計算」
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監査人が会社から入手した資料の計算の正確性を確かめるため、監査人自らが再度計算し確かめる手続です。会社から入手した資料の中には、会社が財務諸表数値を作成するために何らかの計算をして算出しているものがあります。そのような資料を入手した際には、監査人自らが手作業で「再計算」したり、場合によってはITを駆使して「再計算」を実施します。
「再計算」も証票突合同様に基本的な手続で、会社から計算された資料を入手した際には、実務的には無意識に調書を作成する過程で実施しているようなものとなります。
まとめ
- 「リスク対応手続」には、会社の内部統制の有効性を評価する「内部統制の運用評価手続」と監査人自らが監査手続を実施する「実証手続」がある。
- 「実証手続」は、さらに「分析的実証手続」と「詳細テスト」に分かれる。
- 「詳細テスト」は、監査人が実施する監査手続であり、「実査」「確認」「立会」「閲覧」「再計算」等がある。
終わりに
今回は「リスク対応手続」について解説しました。
私自身、会計士試験を受験する際に監査論を勉強していた時は、監査基準等を読み込むことでは監査の具体的なイメージがあまりつかなかったという思いがあります。
実際に監査法人に勤務すると監査論で勉強していたことは、難しいものではなくただ当たり前のことをやっているだけという考えに変わりました。
少しでも会計士試験を勉強している方や監査対応をしてくださっている方のイメージが湧けば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
それでは!