「粗利益」って何?
「その他の利益率」ってどんなものがある?
任天堂の財務諸表を用いた「各種利益率」の具体的な算定方法は?
今回はこのような疑問に答えれるようにわかりやすく解説します。
こんにちわ。大阪の会計士/税理士の唐木です。
監査の中でも財務分析の一種として「財務指標分析」を実施します。
「財務指標分析」は、財務諸表数字を用いて一定の指標を算定し、それを過年度の指標と比較するものです。
「財務指標分析」は、会社の財務諸表数字に異常なものがないかを識別するのに役立ちます。
今回は、「財務指標分析」の中でも「利益率関係」のものについて、わかりやすく解説します。
「利益率」という言葉は、一般的にも使用されるものですので、一般教養として知りたい方にも役立つ情報となっていますので、ぜひ読んでみてください。
「利益率」の種類と内容
「利益率」には色んなものが存在します。
よく使われるものとしては、「粗利益率(売上総利益率とも呼ばれます。)」「営業利益率」「当期純利益率」「総資産利益率(ROA)」「自己資本利益率(株主資本利益率とも呼ばれます。)(ROE)」「投下資本利益率(ROIC)」「投資利益率(ROI)」等があります。
「各種利益率」の良し悪しは1つの企業を見てもわからないので、競合他社と複数比較することで、良し悪しや各業界のトレンドが見えてきます。
「粗利益率」
「粗利益率」は、企業の本業のサービスや商品を販売したことで、直接得たものに係る利益率です。
「粗利益率」は、本業で売っているサービスや商品の稼ぎ出す力を表すものとなります。
原価が人件費のみのサービス業では「粗利益率」は高くなり、人件費に加え、部材等の材料費がかかるメーカーや卸売業、小売業では「粗利益率」は低くなる傾向にあります。
「粗利益率」は、売上高から売上原価を控除した「売上総利益÷売上高×100」で算定できます。
「営業利益率」
「営業利益率」は、本業で稼ぎだした利益で算定する利益率です。
「営業利益率」は、本業の商品やサービスを生み出すのに必要となった原価のみではなく、販売するのにかかったお金や、管理するのにかかったお金も差し引いた「営業利益」を基に算定されます。
販売するのにかかったお金の代表的なものは、「広告宣伝費」であり、管理するのにかかったお金の代表的なものは、経理等の「管理部の人件費」等があります。
「営業利益率」は、「売上総利益」からさらに「販売費及び一般管理費」を控除した「営業利益÷売上高×100」で算定できます。
「当期純利益率」
「当期純利益率」は、本業で稼ぎだした利益のみならず、本業には直接関係のない資金調達により発生した、支払利息やイレギュラーに発生した「特別損益項目」や「税金関係項目」も控除した後の利益で算定する利益率です。
「当期純利益率」は、企業の最終的な利益の利益率であることから、イレギュラーなものも含めて会社の収益力を計測するのに役立ちます。
「当期純利益率」は、「営業利益」からさらに「営業外損益」及び「特別損益」を控除し、さらに「法人税等」も控除した「当期純利益÷売上高×100」で算定できます。
「総資産利益率(ROA)」
「総資産利益率(ROA)」は、総資産を使って、いくらの利益を稼ぎ出すことができたかを表す指標になります。
「総資産」は、BS項目の合計欄であり、「全ての資産」又は「負債+純資産」と一致します。
先ほどまで解説してきた「PL項目」のみで構成される利益率は、「利益効率」を計る指標でしたが、「総資産利益率(ROA)」は、「総資産」という「BS項目」を含めた利益率であり、「投資効率」を計る指標となります。
なお、「総資産利益率(ROA)」を含め、ここから解説する利益率は、「PL項目」だけではなく、「BS項目」も交えた利益率になります。
「総資産利益率(ROA)」は、「当期純利益÷総資産×100」で算定することができます。
「財務指標分析」において「PL項目」と「BS項目」の指標が混じる場合、一つ注意しなければならない点があります。
それは、「PL項目」が1年間を通じて計上される「フロー項目」である一方、「BS項目」は1年間の最終時点の「ストック項目」であるという違いがあることから、「BS項目」を疑似的に「PL項目」のようにするため、「(期首BS残高+期末BS残高)÷2」をする必要があります。
イメージは次の図解となります。
「自己資本利益率(ROE)」
「自己資本利益率(ROE)」は、「自己資本」を使って、いくらの利益を稼ぎ出すことができたかを表す指標になります。
「自己資本」は、株主からの出資金である「株主資本」+「その他の純資産項目(その他包括利益累計額)」の合計となります。
そのため、基本的には、株主からの出資金でいくらお金を稼ぎ出すことができたかを示す指標となります。
「自己資本利益率(ROE)」は、「当期純利益÷自己資本×100」で算定することができます。
「投下資本利益率(ROIC)」
「投下資本利益率(ROIC)」は、会社が銀行等の第3者から調達した資金である「有利子負債」と株主から調達した資金である「株主資本」を使って、いくらの「税引後営業利益」を稼ぎ出すことができたかを表す指標になります。
会社全体の投資効率を示す指標であり、「当期純利益」ではなく、「営業利益」を税引後にしたものを利益指標としているところに特徴があります。
「投下資本利益率(ROIC)」は、「税引後営業利益÷(有利子負債+株主資本=投下資本)×100」で算定することができます。
「投資利益率(ROI)」
今まで解説した指標は会社の業績や投資効率を計る指標でしたが、「投資利益率(ROI)」は、もう一段小さな目線で見る「一つの投資案件」での「投資効率」を計る指標になります。
そのため、会社の投資効率を計る指標ではなく、例えば、自社工場の設備投資等の各投資案件の投資効率を計す指標として、用いられることになります。
「投資利益率(ROI)」は、「各投資案件で得られる利益÷投資額」で算定されます。
任天堂のBS・PL等を用いた当てはめ解説
先ほど解説した、「粗利益率」「営業利益率」「当期純利益率」「総資産利益率(ROA)」「自己資本利益率(ROE)」「投下資本利益率(ROIC)」について、2022年3月期の任天堂の「有価証券報告書」等を基に具体的に解説します。
「投資利益率(ROI)」については、会社ではなく、個別の投資案件に対して用いる指標であるため、解説の対象からは除いています。
なお、「投下資本利益率(ROIC)」算定のための「有利子負債」は、別途「有価証券報告書」の「借入金等明細表」から抽出しています。
「有利子負債」の金額は2022年3月期が6,235百万円、2021年3月期が5,767百万円となっています。
また、単位は百万円で小数点以下第2位を四捨五入して算出しています。
任天堂公式ホームページ 株主様向け報告書より
株主・投資家向け情報:IRライブラリー – 株主様向け報告書 (nintendo.co.jp)
項目 | 算定方法 | 任天堂当てはめ | スクエニ |
粗利益率 | 売上総利益÷売上高×100 | 946,044÷1,695,344×100=55.8% | 53.5% |
営業利益 | 営業利益÷売上高×100 | 592,760÷1,695,344×100=35.0% | 16.2% |
当期純利益率 | 当期純利益÷売上高×100 | 477,691÷1,695,344×100=28.2% | 14.0% |
総資産利益率(ROA) | 当期純利益÷総資産(年平均)×100 | 477,691÷(2,662,384+2,446,918)÷2×100=18.7% | 14.2% |
自己資本利益率(ROE) | 当期純利益÷自己資本(年平均)×100 | 477,691÷(2,003,469+65,573+1,861,582+12,788)÷2×100=24.2% | 19.4% |
投下資本利益率(ROIC) | 税引後営業利益÷(有利子負債+株主資本)(年平均)×100 | (592,760-196,674)÷(6,235+5,767+2,003,469+1,861,582)÷2×100=20.4% | 14.7% |
任天堂にとっての同業他社となるスクウェア・エニックス(以下スクエニ)の数字も参考として算定しました。
比較すると売上総利益は任天堂と大きく変わらないので、事業の収益性は同等と言えるでしょう。
しかしながら、営業利益以下の数字については、任天堂のほうが数字が良いです。
これは、任天堂の売上高が1,695,344百万円に対し、スクエニの売上高は365,275百万円と売上規模に大きな差異があることが要因です。
「営業利益率」の算定上考慮される「販売費及び一般管理費」は、人件費等の固定費的な性格が強いものがありこれを回収した後の利益は全て利益になります。任天堂において「営業利益率」が高いことは、この利益となる部分がかなり多いことを示しています。
まとめ
- よく使われる利益率としては、「粗利益率(売上総利益率とも呼ばれます。)」「営業利益率」「当期純利益率」「総資産利益率(ROA)」「自己資本利益率(株主資本利益率とも呼ばれます。)(ROE)」「投下資本利益率(ROIC)」「投資利益率(ROI)」がある
- 「粗利益率」は、企業の本業のサービスや商品を販売したことで、直接得たものに係る利益率
- 「営業利益率」は、本業で稼ぎだした利益で算定する利益率
- 「当期純利益率」は、本業で稼ぎだした利益のみならず、本業には直接関係のない資金調達により発生した、支払利息やイレギュラーに発生した「特別損益項目」や「税金関係項目」も控除した後の利益で算定する利益率
- 「総資産利益率(ROA)」は、総資産を使って、いくらの利益を稼ぎ出すことができたかを表す指標
- 「自己資本利益率(ROE)」は、「自己資本」を使って、いくらの利益を稼ぎ出すことができたかを表す指標
- 「投下資本利益率(ROIC)」は、会社が銀行等の第3者から調達した資金である「有利子負債」と株主から調達した資金である「株主資本」を使って、いくらの「税引後営業利益」を稼ぎ出すことができたかを表す指標
- 「投資利益率(ROI)」は、今までの指標は会社全体であったのに対して「一つの投資案件」での「投資効率」を計る指標
終わりに
今回は、「各種利益率」について解説しました。
最近は、「各種利益率」について、自分で計算して算出せずとも、参考数字として会社のIR情報や証券会社の投資ツール等で算出されていることが多いです。
とはいうものの、どのように算定されて、どのような意味があるのかを知っていないと数字を有効活用することはできません。
今回解説した知識がお役に立ちますと幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
それでは!