会計士が解説!監査手続の実査って何?

クーちゃん

実査って具体的にどんなことをしているの?
実査の時に注意すべきことは?

今回はこのような疑問に答えれるように解説します。

こんにちは。大阪の会計士/税理士の唐木です。

昔ながらの伝統的な監査手続として実査があります。近年では電子化により現物資産の重要性が薄れていますが、未だ手元に現金を保有している会社は多くあります。従業員立替金の精算・切手や収入印紙の購入・慶弔金としてピン札を用意する必要があるためです。

従業員立替金の精算については、給与振込口座に定期的に支払う仕組みを作ること、切手・収入印紙の現金購入については、後納制度を採用することにキャッシュレス化が可能です。しかしながら、切手・収入印紙については、普段から大量に切手・収入印紙を取り扱う会社でない限り、現金購入をしている会社が多いように思います。

私が担当していたクライアントでは、従業員立替金の精算システムとして楽楽精算を導入しているクライアントがパラパラあります。

昔に比べ手元現金の保有残高が小さくなっており、金額的重要性を有さない場合が多いかと思います。しかしながら、手元現金については、適切な管理体制がない場合には着服等の不正リスクがあります。そのため、会社の現物資産の管理体制については、少なくとも年1回程度確認することが重要です。

実査の対象となる現物資産は、主に、現金・受取手形・ゴルフ会員権、出資金、非上場会社の株式等の有価証券が挙げられます。この中でも受取手形は政府の意向により、2026年に廃止する方針が出されており、電子記録債権に移行を進めている会社もあります。

現在において、金額的重要性の観点から実査を実施する主な現物資産である受取手形が廃止されれば、今後増々現物資産の重要性が低下することが考えられます。

実査は現金等の現物資産の数を実際に数える監査手続であることから、どのようなことをするのかについては、ある程度イメージがつくかと思います。

実際に監査で実査をする際には、いくつか注意点があるので、実務での知識や経験を基に解説したいと思います。

目次

実査時の流れ

実査は、前日に締めた有高又は締めた後の有高を確かめるために、現金が動く前の朝又は現金を締めた後の夕方頃から実施することが多いです。

実査日は、昔は期末日又はその翌日、例えば3月決算の会社であれば、3月31日の夕方、4月1日の朝から実施することがスタンダートだったようです。監査法人のポリシーにもよりますが、近年は現物資産の重要性も低くなっているので、4月の初めの往査日に実施することもあります。

期末日の前後に実査を実施しない場合には、ロール・フォワード又はロールバックする方法が取られています。

例えば、ロールバックの手続として、期末日から実査日までの現金の入金及び出金のエビデンスを確認することにより、期末日時点の実際有高の妥当性について心象を得ることになります。

実査を行う際には、初めに現金をどのように管理しているかをヒアリングにより確認します。

前年から保管方法に変更はないか、保管に用いてる鍵があれば鍵の管理方法はどのようになっているのか、手元現金の補充ルールや普段どの程度手元現金を用意しているのか等を確認します。

例えば、現金を保管しているのが担当者のデスクの鍵付の引き出しであってもこれのみでは問題ありませんが、鍵を同じデスクの違う引き出しに入れている等であれば、誰でも引き出しを開けることができるので問題があると言えます。これについては、鍵の管理を適切にしていただき、必要最低限の特定の人物が現金を触れるように管理状況を改める必要があります。

とはいえ手元現金については、金庫で保管していることが一般的ではあります。

保管しているのが金庫であれば、金庫の中についても一通り確認します。会社の財務諸表に計上されていないものがないかを確かめて網羅性を担保するためです。

一通り現金の管理状況の確認が終われば、次に実際の現金の有高と会社が作成している現金の補助簿や金種表との一致を確かめます。この一致を確認する際に注意すべき事項としては、同時性の原則を意識することが挙げられます。

同時性の原則とは、同じ現金が同じ部屋で管理されている場合には、それらを同じタイミングで実査することで、現金の付け替えを防ぐ手法となります。例えば、親会社と子会社の現金が同じ部屋で管理されている場合には、同じタイミングでカウントを行うことで、現金の付け替えを防ぎます。現金に色はないので、親会社の現金を数えた後にお昼に行く等で部屋を離れた隙に会社が数え終わった親会社の現金を子会社の現金に付け替えることで、現金の水増しが成立するのでこれを防ぐためになります。

現金のほかにも受取手形や有価証券があれば、実物を確認し、会社が作成している手形管理台帳や科目内訳書との整合性を確認します。

有価証券は、非上場会社・子会社株式等の株券の実物を確認することになります。これらは、基本的にすぐに売買できるような性質ではなく、会社が続く限り保有し続ける傾向があります。そのような実物に対しては、初年度の確認時に封印をすることで翌年度以降の実査を楽に進めることができます。

封印は、確認した現物を封筒等にしまって、それらをテープ等で簡単に開けられないようにして、その上にハンコを押印することで開けたらそのことがわかるようにしておきます。そうすることで確認した実物資産を翌年以降再度確認することなく、封印した封筒があることを確かめればよいので、簡単に実査を進めることができます。

すべての実物資産のカウントが完了した後、クライアントの担当者にカウントした実物資産の内容とこれらについて間違いなく監査人から返却を受けたことについて、紙面で合意をとります。万が一実査終了後に現物資産の紛失等があった場合には、これらを基に抗弁することになります。

また、監査人が現物資産を窃盗した等のあらぬ疑いを受けることを避けるために、実査の間、特に現物資産を監査人が実際に触って確認しているときにはクライアントの担当者に同席していただくことが必要です。

まとめ

「実査」について
  • 「実査」は会社の実物資産を確認する監査手続。
  • 近年は実物資産の電子化が進んでおり、金額的重要性が乏しくなりがちで「実査」の有用性は薄れてきている。
  • しかしながら、不正を防止する観点から、年に一度は特に現金周りは「実査」しておくことが重要。
  • 「実査」時には実物資産の確認のみならず、管理方法や金庫の中を確認する必要がある。

終わりに

今回は、リスク対応手続の代表的な手続である「実査」について解説しました。

近年キャッシュレス化が進むにつれて、実物資産の重要性自体が減少しています。

そんな中であっても実物資産を直接監査人がチェックするというのは証明力の高い証拠を簡単に得られる方法であることから、実物資産がなくならない限りは、今後も実施し続けることになります。

実際に実査を担当する新人の監査人や監査対応をしていただいている方のご参考になれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

それでは!

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