「個人事業主」「法人」「マイクロ法人」+「個人事業主」のそれぞれで事業をする場合の主なメリット・デメリットは?
それぞれを選択する際の考え方は?
今回はこのような疑問に答えれるようにわかりやすく解説します。
こんにちわ。大阪の会計士/税理士の唐木です。
独立にあたり、会社を設立することを予定しています。
事業をするうえでの主な選択肢としては、①「個人事業主」として事業をする、②会社を設立して、「法人」として事業をする、③会社を設立して、「法人」での事業に加えて、「個人事業主」としても事業をするの3つのパターンがあります。
③のパターンはいわゆる「マイクロ法人」を設立して、「個人事業主」としても事業をするパターンです。
今回は、これらのパターン毎の主なメリット・デメリットについて、解説したいと思います。
将来的に事業をしようと考えている方の参考になると思いますので、ぜひ読んでみてください!
会社を設立せずに「個人事業主」として事業をする場合のメリット・デメリット
一般的なフリーランスや地元密着型の個人商店等はこのパターンが多いと思います。
メリット
設立費用がかからず、税務署へ開業届等を提出することで始めることができる
「個人事業主」は、会社を設立する必要がなく、税務署に必要な届け出をすることで、事業を行うことができます。
そのため、取っつきやすく、知識があまりなくても始めることができる点にメリットがあります。
「個人事業主」分の経理のみでよく確定申告は知識があれば国税庁HPから自分でできる
「法人」よりも「個人事業主」のほうが、経理が単純です。
効率的に経理をするために、「会計システム」を導入することが考えられますが、最近は「クラウド会計」が発達しており事務作業も手間が少なく、「会計システム」導入のコストも低くなっています。
規模が小さければエクセル等を利用することで、「会計システム」なしでも対応することができます。
また、規模にもよりますが、確定申告もある程度知識があり税務署に相談しながらやれば、税理士に依頼せずとも費用をあまりかけず完結することができます。
デメリット
社会保険に加入できず将来的な保障が少なく、負担も大きくなる
「個人事業主」は、会社に勤める人が加入している社会保険に加入することができません。
社会保険は、「健康保険」「厚生年金保険」「介護保険」「雇用保険」「労災保険」であり、こちらに加入することができません。
そのため、「個人事業主」は、独自に自身のケガや病気に備えるために「国民健康保険」、将来の年金給付のために「国民年金」に加入する必要があります。
「国民健康保険」は扶養の概念がないため、家族全員別々に保険料がかかることになります。
また、「国民年金」は「厚生年金保険」に比べて保障が少ないため、独自に「国民年金基金」に加入したり、「付加年金制度」を活用する等を考える必要があります。
青色申告における繰越欠損金の繰越期間が3年間しかなく節税の幅が狭い
「法人」の場合、繰越欠損金は10年間繰り越すことができますが、「個人事業主」では3年間しか繰り越すことができません。
また、車を法人名義で買って減価償却費で費用計上をするといった節税がされることがありますが、「個人事業主」においては、家事按分をすることで一定の節税はできますが、「法人」ほどの節税を行うことはできません。
「法人」に比べると信頼を得にくいことから、規模を拡大するのには向かない
特に銀行から借入を行う場合において、「法人」に比べると融資を受けづらく、金利等の条件面で不利になることが想定されます。
また、取引先との取引においても個人事業主との取引をしないという会社は存在します。
さらに、従業員を雇うという観点でも、当然ながら法人に人気が集まりやすく、人を雇って事業規模を拡大することを考えているのであれば、法人のほうが良いといえます。
「個人事業主」は、無限責任を負うことになる
会社を設立した出資者は、出資の範囲内で責任を負う有限責任となりますが、「個人事業主」は、無限責任となります。
「個人事業主」は、事業をするにあたっての借入金は自己名義となるため、個人財産を持ち出してでも弁済しなければなりません。
会社を設立して「法人」として事業をする場合のメリット・デメリット
事業を起こして規模を大きくすることを考えている場合はこのパターンになります。
メリット
繰越欠損金の繰越期間が10年間あり、節税方法に幅がある
繰越欠損金は、「個人事業主」は3年間の繰り越しが限度ですが、「法人」は10年間繰り越すことができます。
また、「個人事業主」のデメリットでご紹介したような節税をすることもできます。
さらに、「法人」にしかない税額控除を受けることができる点でも節税メリットがあります。
「所得税」は累進課税であり、「法人税」は一律の税率
法人の税金である「法人税」は、資本金によって税率が異なりますが、所得に一定の税率を乗じることで税金を計算します。
一方、個人の税金である「所得税」は、所得が高くなるにつれて、税率が大きくなる累進課税を採用しているため、所得が高くなればなるほど、税負担が増加することになります。
社会的な信頼があり、銀行からの借入れや従業員の雇いやすさにプラスの影響がある
「法人」は、「個人事業主」と比較すると、銀行からの借り入れが行いやすく、従業員が就職先を選ぶ際も基本的には「法人」のほうが有利になります。
「個人事業主」だとパートが多いかと思いますが、当然規模にもよりますが、「法人」であれば正社員も雇いやすくなるでしょう。
所属する従業員は、社会保険に加入できる
役員を含め、所属する従業員は、社会保険に加入できます。
自身が経営者である場合にはあまりメリットではありませんが、会社と個人の労使折半で支払いがされることから、個人にとっては、半分会社が負担してくれるため、「国民健康保険」「国民年金」に比べ負担が低くメリットがあります。
決算月を自由に決定することができる
「個人事業主」は、暦年での決算(12月決算)が求められ、一律に3月15日までに確定申告をすることが求められます。
一方「法人」であれば、決算月を自由に設定することができます。
税理士に業務依頼することを考えている場合は、最も「法人」の決算期の多い3月と「個人事業主」の確定申告と時期が被る12月は決算月としないほうが良いでしょう。
「法人」は有限責任になるため、出資の範囲内で責任を負う
「法人」の場合は、有限責任となるため、出資の範囲内で責任を負うことになります。
ただ、基本的に銀行借入を行っている場合は、個人として保証を付けることが通常ですので、あまりメリットはないでしょう。
また、役員としての職務を怠っている場合、いわゆる任務懈怠の場合には損害賠償責任を負うことになりますので、この点も注意が必要です。
デメリット
会社設立に費用がかかり、手間も生じる
会社の設立には費用がかかります。
株式会社の場合、紙面定款とする場合で24万円ほど、合同会社の場合10万円ほどかかります。
なお、電子定款とする場合は、定款の印紙代4万円がかかりませんので、それぞれ4万円安くなります。
また、会社を設立するにあたり、知識も必要となるため、専門家に依頼する場合には別途手数料がかかることになります。
法人税の申告に当たり申告書ソフトが必要になり、経理コストが増加
「個人事業主」の場合は、国税庁ホームページの確定申告書等作成コーナーを利用して、無料で申告書を作成することができます。
一方「法人」の場合は、国税庁ホームページの確定申告書の別表をそれぞれ手書きで作成する場合は、コストがかかりませんが、通常市販されている申告書ソフトを導入する必要があります。
また、経理についても「個人事業主」に比べて「法人」のほうが煩雑になりますので、基本的には税理士に業務を依頼しないといけないので経理コストが増加することになります。
株式会社であれば会社法の規定で、毎年の「決算公告」が必要になり、役員の選任登記が少なくとも10年毎に必要
「法人」として株式会社を設立する場合には、毎年「決算公告」が必要になります。
「決算公告」は「電子公告」で実施することも認められていますので、この場合は、自社のホームページに「貸借対照表」を5期間分載せておけば、追加の費用はかかりません。
しかしながら、「官報」や「日刊新聞紙」に掲載する方法であれば、追加の費用も毎年かかりますし、依頼する手間もかかります。
また、株式会社では、役員の在任期間が最大10年間となっています。役員の在任期間を最大の10年間とした場合で役員の変更がなくても、10年に一度は重任登記を行う必要があり、登記の変更でも費用がかかります。
実務上、「決算公告」や役員の選任登記を怠っているケースはありますが、過料が発生する可能性がある点には注意が必要です。
なお、合同会社であればこれらの対応は不要になります。
会社法上、公認会計士又は監査法人の監査を受ける義務のある、資本金5億円以上又は負債総額200億円以上の大会社の場合は、貸借対照表と損益計算書を公告する必要があります。
赤字の期についても「法人」は均等割を支払わないといけない
都道府県と市町村に支払う税金である法人住民税のうち所得の有無にかかわらず、納めなければならない税金として均等割が存在します。
均等割は、大阪が本店であれば、大阪府と大阪市に対して納めなければならず、従業員数や資本金により異なりますが、少なくとも70,000円を毎年納める必要があります。
所得が発生しなくても、一定の税負担がある点は「個人事業主」と異なる点になります。
「マイクロ法人」を設立して、「法人」としても「個人事業主」としても事業をするメリット・デメリット
フリーランスとして「個人事業主」で事業をしながら、別の事業を「法人」でする場合にこの選択肢をとることができます。
今までお話した「個人事業主」と「法人」のメリット・デメリット以外を中心にお話しします。
メリット
社会保険料の算定は、「法人」から受けとった役員報酬で計算される
「法人」で働く人にとっても、大きな負担となっている社会保険料ですが、「マイクロ法人」の役員として働きながら「個人事業主」としても働く場合には、前者の報酬のみで社会保険料が算定されます。
このため、「個人事業主」として得た報酬については、税金はかかりますが、社会保険料の負担がないため、メリットがあります。
「個人事業主」の青色申告控除に加え、「法人」から受け取った給与について、給与所得控除を受けることができる
「個人事業主」として青色申告の控除として最大65万円、「法人」から受け取った給与については、給与所得控除として、最低55万円の控除を受けることができます。
このため、2つの控除を受けることができることから、メリットがあります。
デメリット
「個人事業主分」と「法人分」の二つを経理する必要があるので事務作業が煩雑
「個人事業主」として経理をする必要があるのに加え、「法人」においても経理をする必要があるので、2つの経理を行う必要があり、事務作業が煩雑になります。
また、どちらの事業に費用がかかったのかを意識して、経理する必要もありますので、経理処理の工夫も必要です。
さらに税理士に依頼する場合においても、セットであるため、2倍ということはないでしょうが、幾分かは割高になることは考えておく必要があります。
「法人」では、「個人事業主」で実施する事業とは異なる事業を行う必要がある
最も注意すべき点となりますが、「法人」の事業と「個人事業主」の事業は、異なる事業であることが必要となります。
仮に同じ事業をしていて、単に「法人」と「個人事業主」を契約主体を変えているのみだと、実態としては一つとみなされ、税務上のリスクが相当程度あります。
そのため、例えば、法人ではコンサルティング業務、個人事業主では税務申告対応等、明確に事業を区分する必要があります。
「マイクロ法人」の資金繰りを考える必要がある
メリットにある、「個人事業主」の報酬に社会保険料がかからないことを理由に、「マイクロ法人」の事業をあまりせず、「個人事業主」の事業を優先することがありえます。
しかしながら「マイクロ法人」においては、毎月役員報酬として給料を支払う必要があることから、いくらか資金を生み出す必要があります。
「マイクロ法人」で資金を生み出すために、事業の売上で資金を得るか、高配当株・米国債等の果実で資金を得るか等を検討する必要があります。
個人からの貸付でお金を回すことも考えられますが、貸付と給与が入れ違いになるのみであり、最悪の場合、法人の実態がないとみなされる等税務リスクが発生する可能性があります。
最終的に会社に残った利益剰余金をどのように受け取るかをあらかじめ考えておく必要がある
「マイクロ法人」で事業を行う際に、役員報酬以上の金額の利益が残るようであれば、「マイクロ法人」のBS上利益剰余金が積みあがることになります。
「マイクロ法人」で稼いだ利益は、そのまま個人の資産になるわけではありません。
そのため、最終的に利益剰余金をどのように個人で受け取るのかを考えておく必要があります。
役員報酬で個人に還元すると、個人の税金・社会保険料も増加します。
一方、退職金として受け取るのであれば、最終報酬月額×在任期間×功績倍率で算定された金額を退職金として受け取ることが可能です。
この場合、受け取った個人の税金計算上も有利になります。
しかしながら、上記の算式で計算した退職金が不当に高額であれば、退職金と認められない点には注意が必要です。
特に対策せず、会社の解散時に配当をすると、会社側での費用にならず、受け取った個人においても累進課税で課税がされることになります。
まとめ
事業をするうえでの主な選択肢としては、①「個人事業主」として事業をする、②会社を設立して、「法人」として事業をする、③会社を設立して、「マイクロ法人」での事業に加えて、「個人事業主」としても事業をするの3つのパターンがある。
①「個人事業主」として事業をするメリット・デメリット
メリット
- 設立費用がかからず、税務署へ開業届等を提出するのみで始めることができる
- 個人事業主分の経理のみでよく確定申告は知識があれば国税庁HPから自分でできる
デメリット
- 社会保険に加入できず将来的な保障が少なく、負担も大きくなる
- 青色申告における繰越欠損金の繰越期間が3年間しかなく節税の幅が狭い
- 「法人」に比べると信頼を得にくいことから、規模を拡大するのには向かない
- 「個人事業主」は、無限責任を負うことになる
②会社を設立して、法人として事業をするメリット・デメリット
メリット
- 繰越欠損金の繰越期間が10年間あり、節税方法に幅がある
- 「所得税」は累進課税であり、「法人税」は一律の税率
- 社会的な信頼があり、銀行からの借入れや従業員の雇いやすさにプラスの影響がある
- 所属する従業員は、社会保険に加入できる
- 決算月を自由に決定することができる
- 「法人」は有限責任になるため、出資の範囲内で責任を負う
デメリット
- 会社設立に費用がかかり、手間も生じる
- 「法人税」の申告に当たり申告書ソフトが必要になり、経理コストが増加
- 株式会社であれば会社法の規定で、毎年の「決算公告」が必要になり、役員の選任登記も少なくとも10年毎に必要
- 赤字の期についても「法人」は均等割を支払わないといけない
③会社を設立して、「マイクロ法人」での事業に加えて、「個人事業主」としても事業をするメリット・デメリット
メリット
- 社会保険料の算定は、法人から受けとった役員報酬で計算される
- 「個人事業主」の青色申告控除に加え、「法人」から受け取った給与について、給与所得控除を受けることができる
デメリット
- 「個人事業主分」と「法人分」の二つを経理する必要があるので事務作業が煩雑
- 「法人」では、「個人事業主」で実施する事業とは異なる事業を行う必要がある
- 「マイクロ法人」の資金繰りを考える必要がある
- 最終的に会社に残った利益剰余金をどのように受け取るかをあらかじめ考えておく必要がある
終わりに
今回は、「法人」を設立するメリット・デメリットについて、事業をする主な選択肢別に解説しました。
「個人事業主」は、事務処理に手間をかけたくなく、あまり規模の拡大を考えていない場合、「法人」は、規模の拡大を考えている場合、「マイクロ法人」+「個人事業主」は、あまり規模の拡大を考えておらず、事務手続増加による負担増よりも「個人事業主」での稼ぎが多い場合にそれぞれオススメできる選択肢です。
「マイクロ法人」+「個人事業主」については、「個人事業主」の税率が累進課税である点は考慮する必要があります。
事業を新しく考えられている方や、事業をされている方のご参考になりますと幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
それでは!